(苦しいなぁ)


 焦らないと決めた癖に、ブレてばかり。
 もしもわたしがもう少し大人だったら、『わたしを見て』って言えるのに。告白して、ミモザさんに張り合うことも出来たかもしれない――――そんなことを思う。
 旦那様に本当のことを聞く勇気もなくて、一人で悶々としてしまう。
 本当に救いようがない。


「寂しい思いをさせてすまない」


 旦那様はわたしが泣いていることに気づいているらしい。腕に力を込めながら、宥めるような声音を出す。


(違うよ、旦那様。わたし、寂しいんじゃない)


 そんなのよりもっともっと、醜い感情。涙の理由なんて、気づいてほしくない。
 だけど、ついついそんなことを叫びたくなる。

 結局わたしは、自分だけが旦那様の特別だって思っていたんだと思う。

 だって、わたしは旦那様の前世の妻だし。旦那様がわたしのことを覚えていなくても、運命で繋がっているんだって。
 だからきっと、心のどこかで安心していた。

 だけど旦那様は『リアン』として、既に100年以上の時を生きている。
 その間どんな出来事があったのか、わたしが知ることはできない。事実を変えることもできない。
 例え旦那様に愛する人がいても、どうすることもできないのに。