「いえ。わたしは片づけがありますし、そろそろお暇します。旦那様もお仕事再開しないとですよね」


 お茶を差し出しながらわたしは笑う。苦しい。少し気を抜くだけで涙が零れ落ちそうだった。


(情けないな。二度目の人生だっていうのに)


 旦那様のこととなると全然ダメ。感情が制御できない。大人になんてなれそうにない。

 そんなことを思っていたら、旦那様はわたしの腕をグイッて引っ張った。バランスを崩したわたしは旦那様の胸に着地して、そのまま思い切りギュッと抱き締められる。堪えきれずに、涙が零れた。


「片付けなんて俺がするから。それに、仕事よりも今はアイリスの方が大事だ」


 旦那様はわたしの背を優しく撫でながら、そんなことを言う。まるで恋人同士の会話みたいだ。
 だけど、わたしは旦那様の恋人じゃない。ただの養女だ。


(ミモザさんはさっき、『また後で』って言ってた)


 旦那様とミモザさんはきっと、このあと二人きりで会うんだ。
 大人の男女が二人きりで会う意味なんて、考えたくもない。

 旦那様は疲れた心を、ミモザさんに癒してもらうんだろうか。身を寄せ合って、互いに優しい言葉を掛け合うんだろうか。家には帰って来てくれないのに。ミモザさんのところには足を運ぶの?