頭が真っ白になった。


大好きな彼氏と2日連続でのお家デート。
コロナ禍の影響で夏休みに遠出が出来なくなった楓と秀斗は、ただの家デートでさえもペアルックをしてその時間を噛み締めていた。
ボーダーのTシャツに白い短パンとミニスカート合わせ、まるで海にいくかのような格好だった。



「え…!この曲好き!」


楓は指を刺しながら、高揚した声でプレイリストに手をかける。
1900年代の曲から最新の曲までダウンロードされたプレイリスト。音楽が大好きな楓にとって恋人の好きな曲を知ることは興味津々なのである。
秀斗とその歌を口ずさみながらスマホのプレイリストを眺めていた。
ゆっくりとスクロールされていく音楽と時間の流れが一緒に思えた。



「ちょっと俺トイレに行ってくる」

この後起こる事なんて微塵も思わせないかのような素振りで秀斗はトイレへ向かった。
ーーいつもスマホを預けていく彼。
私を安心させるかのように画面も開きっぱなしだった。




秀斗の良い噂は聞いたことがなかった。

軽い男として有名で、何人も楓の友達は秀斗に声をかけられていた。第一印象はチャラい人。
きっと50人に聞いても50人がそう言うだろう。
無視することが苦手だった楓は気乗りしないながらもDMでやりとりをしていた。




「今度電話しない?」

この一言が全ての始まりだったと思う。
楓は少しの興味から電話をしてしまった。人間の好奇心とは怖いものだ。たった一度の行動で人生が大きく分かれることになるのだから。
学校でお互いの存在を知っていながらも話したことは1度もなく、初めての会話は電話だった。



第一印象は声がすごく優しい人。


低すぎもせず高すぎもせず、その声は落ち着きを纏っている。"ただチャラい"という印象だけで決めつけた自分が申し訳無くなった。聴けば聴くこと秀斗の話にのめり込み、次第にもっと話したい、もっと知りたいと楓の感情は惹かれていったのだ。

楓と秀斗が付き合うのは時間はかからなかった。