「会社を辞めるって、何で言ってくれなかったの?」
「えっ?」
まさかこんな抱きしめられた状況で聞かれるとは思っていなくて、咄嗟に言葉が出てこない。

「俺のこと、そんなに信じられない?」
「そんなこと、ない」

信じるとか信じないって話ではない。

「じゃあもっと頼ってよ」

それができれば苦労はしない。

「俺は蘭さんが好きだよ」

ドクンッ。
この時、自分の心臓の音が確かに聞こえた。

「どんなことがあっても蘭さんをあきらめるつもりは無いし、誰よりも蘭さんを幸せにする。だから、俺にしときなよ」

私に回された宮田君の手がトントンと背中を叩き、顔を上げると目が合った。

「ね?」
小首をかしげる姿は初めて見せる男の顔。

そのパワーに一瞬怯んだものの、私は宮田君をまっすぐに見つめた。