断片集


3階に上ると、そこには母さんと、秋沙さんがいた。
秋沙さんは、母さんの……友人、なのか? 男の人。
よくデートしているから、仲はいいんじゃないかな。
「あ、どうも」
秋沙さんが、ぺこっと頭を下げてくる。
黒髪に、青っぽい目。
そしてところどころ、金髪だけど、染めてはいないらしい。
ごく普通の、どこにでも居そうな顔で、そのあたりはぼくと少し似ている。
「どうも」
「海って、苦手だけど。まぁ、少しずつ克服してきたところだよ」
と、秋沙さんは言う。どうやら昔溺れかけたらしい。
「そうですか。よかった」
つられて会釈すると、母さんはようやくと言った風に、こちらを振り向いた。
「……なんだ。いいところだったのに」
何が?
聞かない方がいいだろうと判断してぼくは言う。
「通りかかっただけだから、すぐ出て行きます」
一応、きょろっと見渡しておく。
3階は最上階である。
大きめに窓が開いてて、潮風が顔に当たるし、海が、よく見渡せる。
あまり椅子は無いけど、すこしすわり心地がよさげなクッションの効いた椅子だ。
バスの待合所の豪華版みたいな感じではあるけど、こんな待合所はいやだって感じもしたりする。階段のところは全体的に、緑っぽいタイルが敷かれていて、ところどころ、飾りが欠けている。直さないんだろうか。それともこれから直すのかな。
頭上にテレビが付いていて、波の予想とか流している。
来ていた女子高生6人が、ほとんどの椅子を座りきり、山手線ゲームっぽいけどなんか違うやつをしてる。
「島あるあるー!」
「発売日!」
「3日後!」「遅いと一週間っ!」「お届けはー」「一部地域で除・か・れ・るっ!」
「日本全国」「どこにでも宅配!」「じゃないだろっ!」「カラオケは」「あるけれど」「たまに道で歌うほうが早い」「誰も居ないっ」「冬!」「塩風!」「大体地元映るときは」「サスペンス!」「テレビに映る」「2時間あっても」「紹介中途半端」「県は同じでもそれは総集編だっ!」「これはやべえ一島にかなりまとめてる」「まじダイジェスト!」「絶景を映しに来ると」「なんか大抵曇ってる!」「誰かしら自分探しにやってくるっ」「大自然が自慢です!」「何も無いって言うなぁぁ」「バスが!」「こないっ!」「船が!」「ライフライン!」「日本地図の」「略図で存在消えてる!」「隅っこも映して!」
テンション高いな……
特に何も無さそうなので、下に降りる。
そのとき、女性の方とすれ違った。黒いワイシャツを着ている彼女は、きょろきょろと何かを探している。ショートボブの髪型で、狐みたいな目をしていた。
やがて、ぼんやり海を眺めていた。
そこには、町が見える。もっと手前、頭上の、目立たない隅の方には、奇妙な飾りが結んであった。
旗、だと思う。