そんな回想をしていることを知る由もないユキは、ただ、ぼくの目の前にしゃがんで、そして、きょとんとこちらを見つめた。
綺麗な、黒目。長いまつげ。
「面白くもなんともなくて、ただその辺に、当たり前みたいに居る、そうだよね」
ユキは、少し何かを考えて、けれど、何か察したように、笑っていた。
「ああ。私たちはどこにでも居るんだよ。どこにだって居るけど、みんな怖がって声をあげないだけで、実は人口の半数を占めているはずだ」
「えー、さすがにそこまで行く?」
目の前に、白いハンカチが差し出される。
ぼくは素直にそれで顔を拭いてから、ありがと、と言う。
「××ちゃんも、疲れちゃってたのかな。ぼくたちが『普通にして』って言うと、みんな疲れちゃって、無理をしてしまう。しなくていいのに、させてしまう」
「そうだな。普通、は沢山あるからな」
船が、一瞬、ぐらっと揺れて、ぼくたちは一瞬よろめいた。
「びっくりしたね」
「そうじゃな」
「これからも、耐えられるかな」
「何に」
独り言のはずだったのに、そう急に聞かれて、なんだか、自分でもよくわからなくなる。
「……わかんない。けど」
つらいんだ。
見えない何かが、今も、ぼくを、彼らの価値観で責め続けているみたいだ。
夢の中の彼らは、ぼくの話なんてまるで聞いてくれないで、怒っている。
きっと泣き出したら、また怒られる。こっそり泣いていたら、××に「俺が悪いのか!?」「だったら言えよ!」って、すごく逆切れされて喚かれたことがある。
それが怖くて、堪えてしまう。おかげでぼくは、あまり、周囲に傷付くことを見せることさえできなくなってしまっている。



