色素の薄い淡い色の髪をハーフアップにしている、少し垂れ目の背が高い人。
血は繋がってないけど、一時期育ての母だった。
白いブラウス姿だ。


たぶん、りこりーんと歳が近い。
(彼女は、20で時が止まり、三十路を恐れて生きる、歳を取らない妖精さんアイドルなのだけど)あの人の芸名は、河茨里古だっけ。
「久しぶり。元気だったか?」
ふっと、笑ってこちらを見てくるのが気に食わなくて、ぼくは、うんざりした声で聞く。
「いったい、何しに来たわけ」
「デートです」
「…………」
相変わらず、意味不明というか、神出鬼没な人だ。
またデートかよ。
この人って、ぼくと会うときはいっつもデートのついでなんだ。


その人はナツを見た。
「よぉ、元気だったか」
「ああ、お久しぶりです」
ナツは畏まったようにその人に挨拶する。
なんでへこへこしているのかわからない。
ぼくが礼儀知らずみたいに見えるじゃないか。
「会いに来てくれたの!? 超嬉しい!」

古里さんのテンションが上がる。
この人が、探偵をやっていたってことを知っているのだ。
ストーカー被害のときにも、どうも、解決に動いてくれたようだけれど。
古里さんはそれから他人の好意が怖くなり、2年ほど休業したことがあったというくらいで、そういうのには過敏になってしまっている。
好かれても、向こうが勝手にそういう風に自分の欲を満たしているに過ぎないんだ、私のことなんか偶像でしかなくて、関係ないんだ、と、割り切ってしまっているのだと思う。
周りがすごいだけで、売込みとか私を見ていた人の才能が、私を見せているだけで。
結局、周りが欲しいのは偶像だ、と、一度『そういうこと』があると、どうしても、そう思ってしまうみたいなのだ。
「お金を払えば人権も売り渡せるみたいに、好き勝手に言っても正しいみたいに見えちゃうことがあるよ。人間じゃなく、ただ、求める偶像を、理想のお人形を見ているだけみたい。たまに、怖くなるの。私、誰に向けて歌って、笑ってるんだろうって」