こいつのキャラは前世で、どういう立ち位置で何歳で何をしていたのか、くらいにうまく言えなかった。

なぜなら、声が遮られたから。
後ろから声をかけられる。
太いベルトの付いた白いミニスカートと、おそろいの白いジャケット(中に、よくわからない言語が大きく印刷されたTシャツを着る懲りよう)姿の古里さんが、腰に手を当てて笑っていた。あれが今回の衣装なのだろう。
「どこ行っていたの、私・オン・ステージを無視しおってー!」
笑いながら怒られた。
ぼくはアイドルとかどうでもいいんですってば、とは言わない。
けど、退屈だったんだもの。
「見ててくれたの、ユキちゃんくらいだったよ!?」
「あの子、あの若さでみんなを気遣って、早死にするかもな」
「そうだね、苦労が絶えないだろうな」
ぼくとナツは顔を見合わせる。
「それより聞いてよ」
彼女は、少し困ったような、真面目な顔になった。
「何かトラブルでも?」
「盗撮かもしれない。撮影禁止なのに」
「そんなの、調べられませんでしたよ? カメラとか、どうせ持ってないけど」
「私は、ファンのみんなを信じていたのっ!」
彼女は偽善者っぽいことを言う。
面倒な人間だなぁ。
なんて、少し呆れていたときだ。


「盗撮かもしれない、とは穏やかじゃないな」
後ろから、眠くなりそうな穏やかで柔らかい声が響いた。
「か、母さん?」
ぼくは、曖昧に呟く。
ナツは固まっていた。
なんでこんなところにあの人が。