断片集


要らないだけだと言っても、あんまり、信じてもらえないんだ。
それはそれで、苦労しそうだった。
大人になったら嘘でもいいから、そういうことを言っておくべきなのかもしれない。
「ちなみに、おしゃれをしてるから狙われるって思うでしょ?」
彼女が急にそんなことを言い出したので、ぼくは驚いた。
ぼくはいつもは適当な服を適当に着ているのだ。
「違うんですか。古里さん、可愛いから余計に目立つんじゃないかと思います」
まるで展覧会の絵でも見るような感想を述べてみる。
「んー、まあそうでもあるけどぉ……」
まんざらでも無さそうに笑って、それから彼女は言う。
「なんかの雑誌で読んだことがあるんだけど、ああいう男は大体、プライドが高くて、断られることを恐れていることが多いんだって」
「へぇ、それで」
「見るからに『これは彼氏が居るな』って感じの雰囲気の人には、むしろ寄って行かなかったりするらしいの」
「寄るってそんな虫みたいな言い方しないでくださいよ」
「うん。ごめんなさい。でも、家と一緒でね、下手に整備がされてないほうが、危険ってこともあるみたいよ」
「そう、ですか」
「だから、可愛いとか、そういうんじゃなくても。変なのが寄り付かないためにも、もう少し、着飾った方が良いかもしれないって話を、私は、以前からしているの。身を守れるくらいの装備は必要よ?」
「…………」
なるほど、そういう視点もあるのか。
なんだか、感心してしまった。
まあ面倒ではあるけれど、今度から、多少は無理をしてみようかなと思う。
「さて。船に乗ってもいいぞ?」
古里さんが言う。仔猫ちゃんのように、カタカタと震えた。
ユキは船に乗ったし、ナツも乗ってたけれど、ぼくはここでいい。
なんだか、気が進まない。
「乗ってもいいぞー?」
面白がって言われるが、ぼくは、がたがたと震えた。
「あー。お前って。本当に面白いな……」
古里さんは、くつくつと、噛み締めるように笑う。
うるさい。
「木に登るのは怖くないけど、後で我に返ったとき、降りるのが怖いんだろ」
「ぼくはこねこちゃんじゃありません……」
そういわれて、泣きたくなってきました。