断片集


「メディアは未だに恋愛脳だから」
「……それ、言って大丈夫なやつですか」
「ダメなら編集されるんじゃないかな? ま、とにかく世界は恋愛主義者が牛耳っているからな。したくないやつもいるだろうにねっ」
きゃっとポーズを決められたが、なんとか仮面みたいな格好でされても魅力が激減だった。
にしても、ぼくに素敵な出会いがどうとか言ってた人とは思えない台詞だと少し思う。
「……はぁ」
「高校時代にアイドルだけで生きられなかったから、近所の店でバイトしようとして、そのときにな、面接で履歴書出したんだ。でも、ちょっと経歴を誤魔化しても、わかったんだろうな。次の日から、家の前を知らない男がうろついてる。安いアパートだから、壁の中の音も気をつけないと全部聞こえるんだぜ? 鍵は安いやつだし」
「なるほど」
「やめてやって、引っ越した。また別のとこで履歴書出した帰り、また家の前にその男が……」
「あら」
「耐えられず、言ってやった『なんなんですか』。そしたら『あ、たまたま。近所だったんで』はぁ? 近所だったらなんだって感じだし、理由より先に言い訳って、やましい感じする、なにより、住所変えたのになんで知ってんの?」
「そうですか? 案外、ただの――ファ」
言葉が遮られた。
「そいつ『彼氏が居ないから望みがあると思いました』とか言い出したんだ。いやいやまてよ。こっちにもタイプがあるだろ、ってな? 居ないからってなんでそう思う? 思考回路、謎すぎんだろ……望みも何も、相手の思考回路がお前と同じなわけあるかいっ」
「あ、アイドルって、大変なんですねー……」
こちらに言われましても。
ど、どう、返答すべきなのかという感じである。
「そーなのそーなのぉ」
きゃ、と、そろそろ人間年齢的には厳しい両腕を顎のそばできゅっと縮めるポーズをする彼女。
「それでぇ、りこりーんはぁ、思ったんですぅ。彼氏は要らんから、SPが欲しいなぁってぇ。あ、彼女をつくればいいのかなぁ? 彼氏は禁止っていってもぉ」
「あ。かもめだー!」
かもめさぁあん。
「おい、話を聞けー。ねー、どうですか?」
小学生になんてことを聞くんだろう。
いや、それ以前だ。
「ぼくは食べ物と物にしか興味がありません。年上の女性も怖い……誰も信じられないっ! ああああ! 優しい笑顔でやってきて世話を焼くふりをして、凶暴な牙が……」
「人生でなにがあったんだよお前は」
ぼくはかたかた震える。
そういえば同年代っぽいのにも、ろくなのが居ない。
他人の感情の表現手段は様々であり、一番身近にいた人間は特に、個性的だった。
価値観がカオス状態。
「あ。あれは漁船かなー?」
海を眺めていると、背中の方を掴まれる。
ちなみに今日の服装は、ごく普通に、ブラウスとスカートだったので、ブラウスが裂けないか心配してしまう。いつもの服より耐久性が低いのだ。
これ、前に連れまわされて買った服、だったかな。
これが、周囲の言う大人っぽいとか、可愛いというものらしい。
でも、布に対してそこまで何を思えばいいのか、未だにぼくはよくわからない。
素材がつるつるして寒いし落ち着かない、以外に何を思えというのだろう。
よくわからない。
「話聞いてる?」
と、聞かれた。聞いては、いる。
しかし、なるほど、そういう風に解釈して勘違いする人間に、こいつのガードは固くない手薄だ、となめられる危険性もあるのか……