なるほど、ぼくの説得はその次だったわけだ。
赤いカーペットを踏み付けて中に入る。ユキが。
ずらりと並んだテーブルと、そこに居る様々な客人たち。
脂ぎった手でカメラを構える中年の人。金髪のお姉さん。仮面をつけた妖しい男、黒髪の女性。
「んじゃ、チビ達、ロリコンとショタコンに捕まらないように、私から離れるなよ」
古里さんが冗談なのか本気なのかわからないことを言う。
「ユキは可愛いから危ないよね、気をつけて」
ぼくが囁くように言うと、ユキは恥ずかしそうに顔を覆った。
「か、かわ……だ、だから……私で遊ぶのはやめてくれっ!」
反応がぼくのような少女よりも、乙女だった。
「いい子いい子」
「ふぁ、やーめーろっ!」
ああ、かわいいってこういう事かと、ぼんやり思う。
なにかが負けている気がする。
うん、気のせいだ。気のせい。
「お前も、腹黒い割に、見た目だけはマシだからな……間違えるやつがいるかも」
ウインクされて、古里さんに囁かれる。
微妙に失礼だな。
「お前、たぶん台詞だけだとビジュアルが予想出来ないランキング一位だよ」
「そんなランキングありません」
そもそも、需要あるのか。
「あ、でも見た目だと性格が予想出来ないって言われますね!」
えへ、と微笑んで言うと、ああ全くだな、と残念そうな目をされる。
うるさい。
「その、全然好かれる気がないところはいいと思う」
「……前に、ちょっとしたことで、他人を助けたんです。そしたら、ですね、毎日のように《愛してる》と繰り返す呪いの電話がかかり始め、毎日のように毒薬が郵送されてきて……ふええ……怖いぃ……他人の愛情怖いいい……! アピールの意図がわかるからそいつはマシなんですよ……でも、わかんない人いるじゃないですか……!」
「お前は、面倒な生き物だな。でも、少し同情するわ。ときに狂気だからな、他人の愛情」
古里さんは、少し同情した目を向けた。アイドルとして、何か思うところがあったらしい
ぶつぶつと、何か言っている。
手作りはダメだ……ああ……とか、なんとか。
「特にストーカーって、意外と地味に怖いんだよ。ファンですって来るだけなら、下手な扱いも出来ないことがあるし」
「あったことあるんですか」
彼女は、そりゃそうよと頷く。そうなのか。
「公には、彼氏が居ませーぇんって言わなきゃならないじゃん? すると同時にな、いらん心配をする輩が、沸くわけだよ」
「はあ」
要らん心配とは、三十路を恐れて生きる妖精さんに、人間社会の闇を説くことなのかもしれない。



