断片集


いつもよりテンションも低いし「愛してる」とは言ってくれなかった。
あいつの中身の無い、あの告白は、いつもの馴染んだ挨拶だったのに。
「おい、お前の番だぞ」
たん、と肩を叩かれて、ぼくは咄嗟に振り払ってから、はっとした。
少し、ぼうっとしていたようだ。
列が少なくなり、目の前に受付のおにいさん。
後ろには、ナツが立っていた。
もう手続きが終わったらしい。
招待状を差し出すと、なにか判子を押されて、それから彼の持っている書類に名前が書かれる。
「……ああ、うん。電話してた」
手続きを終えながら、船の中に進みつつぼくは言う。
中では、電源を切るようにとアナウンスされている。
「俺がかけてもコール一回で切るのに」
ぼくは無視して、中に進む。

「おーい、怖い顔をしておるぞ」
ぼくの背後から、ユキが右隣に並んできて言う。
「リラックスリラックスー」
「……ん」
ぼくは深呼吸する。
少し、気分が落ち着いた。
「どうか、したのか? 気分が優れないのか」
「ユキ」
「はいはい」
近づいてきた華奢な肩に凭れかかる。
「帰りたいです」
「来て早々何を言っとる」
ぼくの背中をぽんぽんと軽くはたきながら、ユキは苦笑する。
「担いででも連れて行くぞ」
「……おに」
「ただ飯だぞ!」
「嬉しそうだね。それが理由で来たんだ」
「もちろん」