* * *


「浴室、使わせてくれてありがとう」


 シャワーを浴び終え、リビングに入ると。
 ソファーに空澄(あすみ)が座っていた。

 なので、すぐにお礼を言った。


彩珠(あじゅ)
『ありがとう』って言ってくれることは、
 とても大切なことだから良いと思うけど、
 それを毎回言うのもキリがないから、
 ここにいる間は毎回、言わなくていいよ」


 淡々とそう言った空澄の言葉に。
 頭の中で『?』が浮かんだ。


 毎回言う?
 キリがない?
 ここにいる間?


「しばらくの間、彩珠はこの家(ここ)に居るんだから」


「えっ⁉」


 空澄の言葉に。
 思わず声が出た。


「『えっ』って、
 俺はそうだと思ってたけど」


 そうだと思っていた、って。


 空澄がそう思ってくれている。
 そのことは、ものすごくありがたい。

 だけど。


「そんなの、
 空澄に悪いよ」


 これ以上、空澄にお世話になるなんて。


「そんなこと気にするな」


 空澄はそう言ってくれているけれど。


「でも……」


 気にならないわけがない。

 こんなにも空澄にお世話になっているのに。


「彩珠」


 そう思っていると。
 空澄は真剣な眼差しで私のことを見た。


 その眼差しは真剣そのもので。
 空澄の瞳から少しも逸らすことはできない。


「今の状態では家に帰ることは難しいだろ。
 落ち着くまでこの家(ここ)に居ればいい」


 空澄は優しいから。
 そう言ってくれている。


「……でも……」


 だけど。

 落ち着くまでとはいえ。
 空澄の家に泊まる。
 そんなこと、ものすごく申し訳ない。


 だから。


「空澄に迷惑はかけられないよ」


 今、思っていることを伝えた。


「迷惑なんかじゃないよ」


 だけど。
 優しい空澄はそう言ってくれる。