それから四十分くらい経って。
 お母さんから【今から行くわね】とメッセージが送られてきた。


 空澄(あすみ)は。
「じゃあ、俺は木の陰(あっち)に隠れてるから」
 と言って本当に木の陰に隠れた。



 それから少しして。
 お母さんが着替えを持って私が座っているベンチのところに来た。

 お母さんは「着替えは、とりあえず三日分で、
 あとパジャマが二組入っているから」と言った。

 そう言って着替えを渡してくれるお母さんに「ありがとう」と言って着替えを受け取った。

 そのとき、お母さんは。
「お父さんはあんな言い方してたけど、
 本当は彩珠(あじゅ)に帰ってきてほしいと思ってるだけだと思うの」
 と言った。


 ……お母さん。

 お母さんが言ったこと。
 それを否定するみたいで悪いと思うけれど。
『あの親父がそんなこと思ってるわけないでしょ』
 そう心の中で思っている。



「何か足りないものがあったら、
 いつでも連絡してね」
 お母さんはそう言って公園(ここ)を出た。



 その様子を見ていた空澄が私のところに戻ってきた。

 そのとき空澄は「優しそうなお母さんだな」と言った。

 空澄がお母さんのことを褒めてくれた。
 そのことが、なんだか嬉しくて。
 私もお母さんのことを「うん。優しいよ」と言った。


「じゃあ、そろそろ行こうか」
 空澄にそう言われて。

 なぜだろう。
「うん」
 そう素直に返事をしている自分がいた。