「次は俺が話す」
鈴森くんの次に話を始めたのは那覇。
それは那覇が初めて『心が呼吸できる世界』に来た前日のこと。
その日、那覇は濡れ衣を着せられる。
なぜそうなったかというと。
那覇は見かけてしまった。
体育館裏で三人の男子生徒が一人の男子生徒のことをイジメているのを。
その周りには他に誰もいない。
那覇はイジメられている男子生徒のことを助け、その場から逃してあげた。
その場に残ったのは那覇とイジメていた三人の男子生徒。
那覇は三人の男子生徒に『もう、こんなことをするな』と言った。
そのとき『どうしたんだ』と言いながら先生が通りかかった。
先生のことを見た三人の男子生徒のうちの一人が『この人がイジメてくるんです』と泣きそうな表情をして那覇のことを指差した。
そんなことを言われてしまった那覇はその男子生徒に『何を言ってるんだ』と言った。
だけど、先生が『ダメだろ、そんなことをしては』と言って那覇のことを全く信じていない。
違う。
信じていないのではない。
先生は面倒なことに巻き込まれたくなかっただけ。
那覇に濡れ衣を着せた男子生徒は理事長の孫。
そのことは学校内で有名な話。
だから先生はその男子生徒を庇うことによって間接的に理事長のご機嫌取りをしたつもりでいるのだろう。
結局、那覇は先生から一方的に『今なら謝れば許してくれると思うぞ』と言われてしまった。
那覇に濡れ衣を着せた生徒は当然憎い。
だけど、那覇の話を全く聞かず一方的に那覇に『謝れ』と言った先生には怒りを通り越して悲しさが募った。
権力——。
その大きな圧力が那覇の心を深く傷つけた。
それと同時に。
家族とこの部屋のメンバー以外、誰も信じることができなくなった。
那覇に濡れ衣を着せた生徒、ご機嫌取りに必死な先生。
そんなのがいる学校には行きたくない。
そう思い、翌日から学校を休むようになってしまった。
学校を休んだ初日。
那覇は『心が呼吸できる世界』に繋がる真っ白な光の出入り口を見た。
そして『心が呼吸できる世界』に来るようになって一ヶ月になる。
那覇は話を終え「俺の話は以上だ」と言った。
そのときの辛い出来事を話していたからか、苦痛な表情をしている。
さっきも見たけれど。
那覇のブレスレットは。
やっぱり真っ赤な色をしている。
那覇の話を聞き終え。
私たち四人が共通して言った言葉。
それは。
「濡れ衣を着せた男子生徒は
自分が理事長の孫だから誰も逆らえないと調子に乗っているのだと思う。
それを利用して悪事をするなんて最低な行為。
先生も那覇に濡れ衣を着せた男子生徒は理事長の孫だからビビッてしまうのかもしれないけど、
どんな生徒に対しても公平に接さなくてはいけないと思う」
那覇が濡れ衣を着せられ、それでも先生に庇ってもらえなかったこと。
そのことに私たち四人は那覇と同じように心を痛めた。