「あと、もう一つ、
 これも大事なことなんだけど」


 惺月(しずく)さんは再び少しだけ真剣な表情(かお)になった。


「『心が呼吸できる世界』が存在することは
 絶対に誰にも言ってはいけない。
 そのことを必ず守ってほしいの」


 一言一言、丁寧に惺月さんはそう言った。


「もし誰かに話してしまったら……」


 惺月さんの言葉の続き。
 それは何なのか。
 緊張しながら待つ。


「消える、の。
 全ての記憶が」


 え……っ⁉

 消えて、しまう……⁉
 記憶が……⁉
 全ての……⁉


「今まで過ごしてきた記憶。
 そして自分の名前すらも」


 ショックだった。

 もし誰かに話してしまったら、そんな罰則があるなんて。


 だけど。
 当然のことなのかもしれない。

『心が呼吸できる世界』のことは。
 それだけ重要度が高いと思うから。

 だから。


「わかりました。
『心が呼吸できる世界』のことは決して誰にも言いません」


 惺月さんに固く誓った。


「ありがとう。
 信頼しているわ」


 私の誓いの言葉に惺月さんは穏やかな笑顔でそう言った。