「……いつの頃からか、
 お前は父さんから酷いことを言われるようになった。
 それに反するように
 俺と彩葉は父さんからものすごく可愛がられた」


 そう話しているお兄ちゃんの表情(かお)が辛そうに見える。


「お前が父さんから酷いことを言われていること知っていたのに
 俺たちはお前のことを助けることができなかった。
 ……いや、『できなかった』んじゃなくて『しなかった』のかもしれない。
 お前を庇うことで父さんに逆らうことになるかもしれない。
 そう思うと怖かったんだ」


 今、思い出した。

 今までお姉ちゃんやお兄ちゃんとコミュニケーションをとったことはないと思っていた。
 だけど、私が親父から侮辱される前は、お姉ちゃんやお兄ちゃんとコミュニケーションをとっていた。

 そんな記憶が蘇ってきた。


「だから彩珠(あじゅ)は、そんな私と和輝(あいき)のことを憎んでいるだろう。
 そう思うと彩珠と話すことが申し訳ないし、それから怖くて。
 だから私と和輝は彩珠から距離を置くようになってしまった。
 わざわざそうするつもりでしていたわけではないけど、
 結果、そうなってしまった。
 今更、謝ってもどうにもならないけど……
 本当にごめんね、彩珠」


 お姉ちゃんは目に涙を滲ませながらそう言った。


「俺も今更だけど……
 本当にごめん、彩珠」


 お兄ちゃんはより辛そうな表情(かお)をしてそう言った。