「また少しでも時間があるときに一緒に話そう」


 私も親父のことを見ることができていなかった。

 ううん、見ないようにしていたのだと思う。


「すぐにわかってほしいとは言わない。
 少しずつでいいから、
 これからは、もっと腹を割って話し合っていきたい」


 今までは親父と関わらないのがベストと思っていた。

 だけど、それでは何も解決しない。


 もっと正面からぶつかって喧嘩をしてもいい。
 だから、お互いもっと自分のことをさらけ出していきたいと思った。

 そうすることで、お互いの気持ちを知ることができると思う。



 そう。
 そうなんだ。

 いくら卑劣な父親(人間)でも。
 話をするということ。
 それは、とても大切なこと。

 話をしなければ相手の考えていることはわからない。
 それから自分の考えていることだって伝わらない。


 人間はエスパーではない。

 話し合わなければ、お互いの考えていることや気持ちはわからない。


 せっかく人間に生まれてきたのだから。
 話をすることができる口があるのだから。

 もっと自分の考えていること思っていること。
 それらを言葉にして伝えていきたい。


 そのためには自分のことを伝えるだけではいけない。
 相手のことも知る必要があると思った。

 知ろうと思った。
 親父のこと。

 怒りや憎しみばかりを抱くのではなく。
 親父の話に耳を傾けて。
 親父が本当は何を思い考えているか。
 それらをじっくり聞こうと思った。

 そうすることによって、お互いの気持ちや考えていることや思っていること。
 それらを整理し伝え受け止めることができると思う。

 そうすれば親父がどうしてそういう考え方になったのか。
 それを少しでも知ることができるかもしれない。

 だから。


「お父さん、
 今度、時間があるときに
 お父さんの子供の頃や
 私が生まれる前のお父さんの話、
 聞かせてよ」


 私が知らないときの親父の話を聞こうと思った。



 いつもの私とは違うからか。

 親父はもちろんのこと。
 お母さんやお姉ちゃんやお兄ちゃんも驚いて呆気にとられている。


 だけど、そんなお母さんたちの様子に全く構うことなく。
「家でご飯を食べるの久しぶり。
 今日もいつも通り美味しそう。
 いただきます」
 そう言って朝食を口に運んだ。