「部外者の君には関係ないことだ」
空澄の願いは、やっぱり親父に聞き入れてもらえなかった。
親父は改めて武藤さんと北山さんに「連れて行ってくれ」と指示を出した。
武藤さんと北山さんは親父の指示に従い、私を車が停めてある方へ連れて行く。
そのとき空澄の方を見た。
空澄はまだ親父の部下の人たちに取り押さえられている。
たぶん私が車に乗り込み車が動き出すまで空澄は解放されないだろう。
どんどん離れていく。
空澄との距離。
小さくなっていく。
空澄の姿。
だけど、微かに見える。
空澄の表情。
空澄は唇を嚙みしめている。
もしかしたら悔しいと思っている、のかもしれない。
私が連れて行かれる。
それを見ていなければならないことを。
空澄が本当にそう思っているのか。
それは、わからない。
だけど、もしそう思っているのだとしたら。
空澄は悔しいと思う必要は全くない。
こんな状況でも必死に私のことを救おうとしてくれた。
そのことは、ものすごく嬉しいし感謝してもしきれない。
空澄と出会えたこと。
それから……恋人同士……になれたこと。
それらの一つ一つのことが私にとって大切な宝物。
空澄。
本当にありがとう。
そう思っていると。
だんだんと気持ちが落ち着いてきた。
正直なところ、親父から逃げることはできないという気持ちもあるのだと思う。
だけど今までの私とは違うところもあるというのも事実。
今の私は。
諦めない気持ち、それを少しだけ持つことができるようになっていると思う。
今は大人しく家に帰る。
そして機会を待つ。
空澄や凪紗や心詞や響基と会う。
そのことを可能になる。
そのときを。
大丈夫。
絶対に来る。
そのときは。
そう思いながら、車に乗り込んだ。