カツリ、とすぐ目の前で足を止めて顔を覗き込むようにしてにっこりと笑みを浮かべる。うん、驚いたように目を見張る姿も美しい。身長差があって良かったわ。



「……………私に、何か?」


「いきなりで申し訳ありません。わたし、グレイス・ミレブラウと申します」



指先まで意識して丁寧に腰を落として頭を下げる。なぜか動揺するような雰囲気を感じるけど……あ、女性慣れしてないから?え、なにそれかわいい。こんなに妖艶で美しい人なのにかわいいってもう反則じゃない?


さっと顔を上げればそらし損ねたのか一瞬だけ視線が合ったけどすぐに目を伏せられる。その目元は少しだけ朱を帯びていて色っぽい。……駄目だわ。こんな絶滅危惧種みたいな純粋な人、ちょっと目を離せばすぐに食べられてしまうわ!


もうこれは神様がわたしにこの美しい人を守れと天啓を与えているのでは?全力で愛せと背中を押されているのでは?!


そこでわたしの中のマナーやら淑女として相応しい態度やらその他周囲のことやらは頭の中から吹っ飛んでいった。


もうこの人を逃してなるものか!!と本能にも似た想いのみが体中を埋め尽くしていく。後に兄からは「まるで猛獣が幼気な愛玩動物を前にして狩りをするかのようだった」と言われた。報復は標本で良いかしら。


素早く、しかし痛くないように細心の注意を払いつつ目の前の美しい人の手を両手で取る。いやわし掴む。男の人らしい少し骨ばった、あたたかな大きな手のひらに今触れているのだと思うともう堪らなくて。




「わたしを、あなたのお嫁さんにして下さい!!!!!」




グレイス・ミレブラウ、13歳。デビュタントにて運命の出会いをし、色々な段階をすっ飛ばし渾身のプロポーズかましました。