「グレイス嬢………?」
「………………………はっ!!」
気づいた時にはすでに手遅れだった。
目を丸くして困惑したようにわたしとその周辺を確認するグラナティス様を見てさあぁぁっ、と耳元で血の気が下がる音がした。
ここで客観的に現状がどうなっているのか説明をすると、わたしの足元には倒れ伏している貴族の令息が数人、そして今まさに地に
投げ捨てる所ですとばかりに右手で胸ぐら掴んで持ち上げている令息が1人。その誰もが派手な流血はないもののボコボコに顔が腫れ上がっている。
………………………………終わった。完全にいろいろと終わった。どこからどう見ても現行犯である。
小さな頃から稀な体質のせいで魔術が使えず、数少なくできる身体強化を磨き、それだけでは飽き足らず体術やその他の武術も齧り、その辺の暴漢ぐらいなら素手でボコボコにできるぐらいには無駄に実力をつけてしまったわたし。
年齢を重ねればさすがに貴族の令嬢としてこれはまずいと両親に懇願されて武術や鍛錬を控えるようになり、デビュタントを迎えてからはグラナティス様に万が一にも嫌われてはいけないとますます大人しくするようになったけれど、幼い頃から培ってきた気質は変えられなかったらしい。
どうしよう……絶対にひかれた。お転婆娘どころの話ではない。男性を拳で地に伏せた令嬢とかないわ。ないわー……


