思い返すのはあの日の牢獄でのこと。
「ね、根性があるのは勿論のこと、弁がたって貴族のあれこれにも通じている女の間諜……欲しくなぁい?」
余裕そうな態度に見えただろうけどそれなりに緊張して心臓ばくばくしていた。そりゃあもう今世で一番緊張したと思う。これと比べたらデビュタントなんて屁でもなかったわね!
さぁはよ返事を、なんて内心急かしながら笑みを浮かべて目の前の影を見つめる。我慢しろ焦るなわたし、ここで急かしたら有利を手放すことになるぞと呪文のように呟いておく。
「えーと……つまりあんたは、俺らの仲間入りしたいってわけ?」
「そうね。そういうことになるわ」
「…………意味わかって言ってんの?」
「そのつもりよ。伊達に王子妃教育受けてないわ」
そういえばそうだった、と頷く姿につい呆れてしまう。ついさっきもおんなじこと話してたんだけどね。まぁポーズかもしれないから口に出すのはやめておこう。口は災いの元ってね。