コーヒー店のアールグレイ女史


「すっごく美味しかったです。」

食べ終わると西島は笑顔でお礼を言った。そして西島は、洗い物はさせてくださいと言って台所に立った。
バイトで慣れているのか手早やかった。

「ありがとう。助かったわ。」

「いえ、こちらこそホント美味しかったです。カレーと言えばレトルトか弁当屋のばかりだから、手作りカレーなんてずっと食べていません。」

「お母さんのカレーみたいだった? 」

「・・・お母さんのカレー記憶が無くて・・・」

「そうなの・・・ごめんなさい。」

「いえ、僕が子供のころ両親が離婚して、母は出ていきました。僕は父親に引き取られたのですが、父が再婚して家に居づらくなって、高校の途中で家出しました。それからずっと一人です。・・・ごめんなさい。こんな話しちゃって・・・」

「苦労したんだ・・・」

「人に可哀そうとか言われるのもイャだから必死にバイトして、高校もやめちゃったから大学受験の資格を取って、今は奨学金貰って大学に通っています。奨学金返すのも大変なので、平日朝のコーヒー店と土日夜は居酒屋でバイトしています。」

「どこの大学に通っているの? 」

「T大です。国立の方が安いから・・・」

「凄いね、頭いいんだ。それでこの先何になりたいの? 」

「判事です。」

「・・・だから、私が弁護士だと聞いてここに付いて来たのね。」

「・・・今必死で司法試験の勉強をしています。昨年から受け始めました。」

「今何年生? 」

「4年です。今年は絶対受かりたい・・・」

「試験5月よね。もうすぐね。」

「はい・・・」

「だったら、今はとにかく勉強しなくちゃ。悪かったわね誘ってしまって。時間奪っちゃった。」

「いえ。知り合いに弁護士さんいなかったから、いろいろ聞きたいことがあっても聞けないから、お知り合いになれてうれしいです。」