夏の終わりにピュアな恋を

茜の住むマンションまでは電車で十五分ほど。
再び手を繋いだ二人は、それなりに人の多い電車内で扉付近に立った。

外はもうすっかり暗いため、車内の様子がガラス窓に映る。

茜は身長が百六十センチで少しヒールのある靴を履いているため、女性の中では少し高めかなと思っていたけれど。
浩輝と並ぶと彼よりもずいぶん低く見えて何だか嬉しい。
それに、こうして隣に並んでいるとお似合いのような気がしてくる。

(……完全に盲目になってるわ)

自分の考えを戒めつつも、やはり嬉しさは隠しきれず、電車に揺られながらふとした瞬間に茜は浩輝に囁いた。

「ねえ、私も浩輝くんのことが好き」

「なっ……!ちょっ、今言う?!」

みるみる真っ赤になっていく浩輝のことを可愛いなと余裕の笑みで見つめていれば、ぐいっと引かれてわずかに開いていた浩輝との距離がぐっと近くなる。

そして耳元に寄せられる唇。

「茜さんとキスしたい」

掠れた低温ボイスがぞわりと茜の体を震わせ、体の奥を疼かせる。
一瞬車内のザワザワとした音が消え失せ、電車のガタンゴトンという機械音だけが耳に届いた。

少し前に告白されて、ついさっき返事をしたばかりなのに。それだけでも胸がときめき張り裂けそうになっているというのに、どこまで求めてくるのか。

けれども茜とて嫌だという気持ちはまったくなく、むしろそれすらも愛おしいと感じてしまう。

茜はクスリと笑うと浩輝の胸をトンと叩いた。

「……そっちこそ、今言う?」

「だって茜さんが可愛いこと言うから。仕方ないよね?」

こそこそと、車内で話をするのもまた恋人感があってドキドキする。しかも話の内容がこれだから、ドキドキに拍車がかかってだんだんとお互いに恥ずかしくなってくる。
そんな初々しさも何だかいい気持ちだ。

「……じゃあ、後でね」

「絶対ですよ!」

最寄り駅まではあとひとつ。
遠くの稲光はもうすっかり怖くない。

虫も雷も大嫌いだったけれど、こんな結末が待っていたのなら悪くないかもと、茜はふふっと微笑んだ。


【END】