「なんだ、違うんですか」

「バカなことを言わないでください。 ほら、さっさとやりますよ」

「はーい」

 僕が恋? 時枝さんに、恋?

 一体何を言ってるんだ……。

「さ、次の新作に向けて企画書を作りましょう」

「はい」

 そう思っていたけど、僕はやはり彼女に恋をしているのだと、しばらくしてから気付いた。




「時枝さん、大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 時枝さんのその小さな背中から溢れ出る、可愛いらしさが僕の心を妙にザワザワさせる。

「糸くず、付いてますよ」

「え? あ、ありがとうございます」

 彼女の一生懸命働く姿は、可愛い。そして見ていて飽きない。
 こんなに飽きない人は、滅多にいないだろう。

「お疲れ様です!」

「……お疲れ様です」

 最初はあまり話すこともなかった。挨拶をするだけの、そんな関係だった。
 けどその関係が大きく変わったのは、あの時のエレベーター事故だろう。
 
 エレベーターが故障して、時枝さんと二人で閉じ込められたのあの時。
 エレベーターに閉じ込められ、時枝さんと二人きりになってしまったあの日、僕達の関係は変わっていった。