『当たり前だろう。彼の母親は、
ただの町の娘だったのだから。』
一際大きな声で聞こえた気がした。
六華は声の主をキッと睨み付ける。
頭の固い官僚のじじいの声だった。
じじいはバツが悪そうに目を逸らすと、
他の取り巻き達とその場を離れた。
『おぉ、怖い怖い。第二王子様に、
睨まれてしまいましたな、ハッハッハ』
遠くで少しも反省の色が見えない声が、
六華の耳に届き、大きな舌打ちをした。
…忌々しいのはどっちだよ。
言いたい奴には言わせればいい。
うんざりしながら廊下を歩いた。
六華の部屋と広間はそう遠くは無い。
「はーっ、疲れた。」
広間の扉を締め切ってやっと落ち着く。
ドアに背中をつけてしゃがみこんだ。
血溜まり、フォーク、冷えた料理…。
六華は全ての様子を観察して、
誰かの口に入るはずだった食材や、
食器などを全てゴミ袋に放り込む。
床は消毒も完了し、安全を確保した。
「…ふぅん?」
一通りの作業を終えた六華は、
ゴミ処理場に向かうため廊下に出た。
夜も更けてきた城の中には、
無駄話をする輩はもういない。
六華はホッと息を吐いた。



