『六華様が戻って参りましたよ。』
『忌々しい、きっと彼の仕業だ。』
『可哀想な第一王子。』
『恐ろしい第二王子。』
『あぁ…忌々しい。』
廊下を歩く六華の背中に召使い達の、
鋭い眼光と心無い言葉が突き刺さる。
ヒソヒソヒソヒソ…小声で鬱陶しい。
正面から言われれば反論の余地もある。
しかし六華と視線が絡もうものなら、
あからさまにその場を離れるのである。
卑怯で陰湿…王宮に関わる者達は、
そういう嫌な奴が多いのである。
陰口は物心がついた時には日常茶飯事。
幼き頃の六華は傷つくばかりだった。
そんな昔の記憶に残る古傷は、
事ある毎にチクチクと痛み出す。
外傷とは違う、いつまでも消えない傷。
『深雪様や吹雪様は美しい金髪なのに、
六華様は泥のような薄汚い茶髪だ。』
『深雪様や吹雪様の瞳は冬の深海の色。
しかし六華様の瞳は雑草の色だ。』
『冬の王子に相応しくない方だ。』
長い長い廊下を歩く。早く…早く。
兄や弟ならば不敬罪が成立して、
即刻が首はねられてしまうだろう。
しかし、六華は事を大きくしない為、
六華への召使いの陰口は絶えない。



