「…六華様。」
兄を抱えて歩く怒気の溢れる六華に、
自ら話しかける命知らずな女の姿。
「…あぁ、アンタは兄貴の。」
白い肌に黒髪の長い三つ編みの映える、
所謂、町にいたら噂になるような美人。
彼女は兄貴専属のメイドだ。
六華は少し肩の力が抜けたのを感じた。
「はい、ご無沙汰しております。
深雪様の看病の件なのですが…」
「丁度良い、部屋に着いたら手を貸せ。
俺は広間の惨事の片付けがある。第一、
兄貴に付きっきりは絶ッ対に御免だ。」
珍しく饒舌な六華に驚きつつも、
畏まりましたと返事をするメイド。
周囲を確認して六華の部屋のドアを、
そっと開けてどうぞと促した。
「兄貴が死ねば俺かアンタの落ち度だ。
この意味、賢いアンタなら判るな?」
彼女の仕事ぶりは六華も幼い頃から、
十分に知っているし見て成長している。
六華が信頼する数少ない使用人だ。
「勿論、承知しております。」
不出来な第二王子が裏切る。
そんな可能性も普通は考えるだろう。
しかし、この女も六華を幼い頃から、
十分に知っているし見て仕えている。
六華はひとまず安堵の息を吐いた…。



