「全員、自分の持ち場に戻れ。
暫くの間、兄貴の護衛は不要だ。
ここも後で俺が全て片付ける。
広間に繋がる全ての扉を閉め、
…早急に退室しろ。」
六華が一際低い声で判ったな?と、
牽制をすると召使い達は一礼した。
『畏まりました。』
誰も居なくなった広間に兄の吐息。
肩を強張らせて嗚咽を繰り返す。
六華は兄の背中を擦ってやりながら、
小さく息を吐いた…嗚呼、嫌だ。
「こんな世界…ただの生き地獄だろ。」
しかし兄はそれを他人に悟らせない。
だから第一王子という肩書きを、
僻む馬鹿がいつまでも減らないのだ。
「兄貴、もうここには誰もいない。
…おい、いい加減に力を抜け。」
「あ…」
六華の腕の皮膚を抉るほど力を込めて、
無理矢理、上半身を起こしていたのだ。
兄はそのままふっと目を閉じた…。
「チッ、馬鹿兄貴が。」
言葉とは裏腹に優しく兄を抱き上げる。
まるで眠り姫のようだと六華は思った。
「…眠り続けることが出来れば、
痛みや苦しみに怯えずに済むのに。
難儀だよな。俺も、アンタも…。」
六華の思いは誰の耳にも入らず、
静かな空間に溶けて消えた。



