「え…?み、深雪…兄様…?」

「ゲホッ…ケホケホッ…ヒュッ、ハッ…」

床で縮こまる青年は咳を繰り返す。

足元には紅い水溜まりが出来ていた。

「な、んで…深雪兄様…深雪兄様!」

青年に駆け寄ろうとした少年が、

ピタリと動きを止める。

食事の席に座っていた唯一の女が、

彼の耳をそっと塞いだのだった。

「母上!深雪兄様がっ…」

彼女は母親であり、王を支える妃。

震えて涙を溢す息子を聖母のように、

優しく抱きしめて声をかける。

「落ち着きなさい、吹雪は無事ね?
まずはここを離れましょう…。」

吹雪と呼ばれた少年の肩越しに、

鋭い…空気を裂く鉛玉のような視線が、

六華の背中を突き刺した。

「り…ッ、か…カヒュッ、ケホケホッ…六華
離れッ、ヒュッ…毒ッ、ゲホッ…ッ!」

「話すな!分かったから吐け。
胃の中身、全部出せ!!」

駆け寄り、差し出した六華の手を、

汗ばんで冷えきった指先が押しのける。

「六華、お前に深雪の看病を一任する。
深雪に何かあればお前の責任だ。」

「…っ、はい。」

王は冷たい声で言い捨てると、

振り返ること無く広間を後にした…。