薄暗い部屋に蝋燭の淡い光が揺れる。

それは机の上に広がる分厚い書籍の、

無数に羅列する小さな文字を照らした。

長く綺麗な指先がページを捲ると、

ペラリと軽い音を奏でる。

万年筆が紙を滑り、美しい文字が踊る。

窓辺の白いレースカーテンが、

冷たい床にぼんやりと月の影を映した。

『コンコンコンッ』

分厚い木製のドアが音を響かせる。

『六華様、夕食のお時間です。』

若い女の冷ややかな声が部屋に響いた。

羅列をなぞる指がピタリと動きを止め、

ほんの少しの静寂が部屋を包む。

『六華様。』

再び冷たい声がドアを突き抜けた。

六華と呼ばれた青年は深く息を吐く。

「…分かった、戻れ。」

地を這うような低い声で紡がれた言葉。

ドアの向こうで足音が遠ざかった。

人の気配が無いのを確認すると、

ぐぐっと体を伸ばして首を鳴らす。

「フー。」

六華は静かに椅子を引いて立ち上がる。

蝋燭の火にふぅっと息を吹き掛けて、

部屋を後にした。…あぁ、目が痛い。

鋭い光に目を細める彼の背中を、

召使いの大人達は遠巻きに見つめる。

六華は大股で長い廊下を歩き出した。