電話が鳴った。「西田翔平」。

もう24時を回ってて、それでも私はベッドの上で泣いて寝られなかった。

ゆっくりと電話に出るボタンを押して耳にあてる。

「もしもし」

翔平の声の背景は静かなセミの声がした。外にいるんや。

「なに、どしたの」

明らかに鼻声な自分。泣いてたことがバレる。

「うん、今さっきな、晴人から聞いたよ」

晴人という名前にドキリとする。

「ほんまにごめん」と翔平は謝ってきた。

「涼香は大丈夫?」
「うん、大丈夫やで」
「じゃあなんで泣いてるん」

耳元でする翔平の声が優しくて、私がやっと止めた涙がまた出てきそうになる。

「声が泣いてんで」
「翔平、どうしよう」

翔平は電話の向こうで静かになったから、セミの声だけがする。

「私、晴人と別れてしもた」
「うん」
「もう晴人と会えん気がする」
「うん」
「晴人のこと好きになれんかってん」
「俺、今からそっち行くよ」
「待って、酷いねんて、顔ぐっしゃぐしゃやねんて」

私の言葉になぜか翔平が笑った。
化粧してないうえにこんな顔面を翔平に見られるのは嫌や、という乙女心が少しだけ顔を覗かせた。