そう言って指差した先にいたのは、私が高一から存在を知っていた翔平だった。

「西田やんな」

私はそっけなく答える。

「すご、知ってんやん。翔平!井口さん、お前の名前知ってんで」

晴人が嬉しそうに教室の向こうで他の男と話してる翔平に話しかけた。

翔平は「まじで」と大声で答えながら、ふと私の方を見て、そして目が合ってしまったから私は思わず目を逸らした。

「委員会決めた?」

晴人は突然の話題転換をする。

「委員会?」
「俺、第一希望美化委員会にすんねんけど、決めた?」

私は「ああ」と言いながら、自分が何希望にしてたか、そもそも何委員会があるのか思い出せなかった。

「じゃあ井口さんも美化委員にしようや」
「美化委員って何すんの」
「知らん、暇そうやん」
「暇そうやけど、掃除すんの好きやない」

そう答えると、晴人は「不潔やな」とストレートに返してきた。

「井口涼香、不潔やん」
「学校と掃除が面倒くさいねんて」
「不潔で不良や」

晴人はヘラヘラと笑いながら立ち上がり、さらりと翔平の方へと去っていった。

なんなん、あいつ。

晴人はなぜか、その日以降、突然私のことを「涼香」と呼ぶようになっていた。

「涼香、何しとん」と何もしてない時に話しかけてくるようになっていた。

「何もしてへんて」と答えると「暇なんやな」とだけ返してどっか消えてく。