「なあなあ」

初めて晴人と話したのは高3の春。
バレー部の晴人は色が白く、適度に背が高かった。

「井口さんて、寺腰と同じ高校やんな」

教室を大きく横断し私の机まで来てわざわざ話しかけてきたのが、寺腰という同じ中学校でバレー部だった男の話題。

「寺腰な、そやで」
「仲良かったん」
「別に、全然話したことないで」
「アイツ嘘ついとったよ、井口さんと仲良い言うてた」
「仲良いはない、さすがに」

笑いながら答えると、馴れ馴れしく晴人はそこにしゃがみ込んだ。私が見下す形になる。

「寺腰、レギュラーちゃうやろ」

私が確認するように聞くと、

「ちゃうな、下手やもんアイツ」

失礼な男やと思った。

「井口さん、吹奏楽部やんな」
「なんで知ってんの」
「野球部の応援行った時、見たことあった」

ふうん、と思いながら、私は全然この男のことを知らなかったと思う。

案外吹奏楽部見られてるんや、野球の試合なのに。

「井口さんて『いぐちりょうか』やんな、名前」
「そやで」
「俺の名前知ってる?」
「ごめん、真野、まの・・・」
「名字覚えてんやん、すご。真野晴人言うんやけど、じゃあアイツの名前知ってる?」