私は驚いてすぐそこにある顔を見ようとする。近過ぎて見えないけど。

「急やな」

肩の上でこくんと頷く。

「大阪行かへん?」

鏡に反射して晴人と目が合った。と同時に、私がとんでもなく情けない顔をしてることに気付く。

こんな顔してたんや。

「あのさ、俺今ちょっと結婚も考えてんで」

私は咀嚼するように、ゆっくりと頷いた。

だけどそれは答えとしての頷きではない。

晴人の腕を振り解くようにして、ゆっくり振り向くと、晴人は私をただ見下ろす。

その顔は無表情。

プロポーズちゃうん、なんなんその顔。

「ごめん、早すぎ」
「なにが」
「付き合ったばっかやん」
「高校時代からの付き合いやん」

私は半乾きの髪も諦めて、ベッドに向かい腰掛ける。
すぐ隣に晴人が座ってきた。

「夢やったんちゃうの、大阪戻って結婚すんの」

今にも消えそうな声で言う。

「私、仕事あるし、そんな大阪になんて今戻れんて」
「仕事が理由ちゃうやろ」