晴人は何の感情もないような顔して言った。

「翔平、民間の営業やで」

「なんでここで翔平が出てくるん」の「な」まで言いかけたところで、また晴人が続けて言う。

「大阪戻ってまた翔平を狙いに行くんちゃうん」
「なに言うてん、べつに翔平のこと今考えてないし」

「ふうん」と、晴人が私の方を疑いの目で見る。

「それにあれ、翔平ってさっさと結婚しそうやん」
「ああ、なんか彼女おるな」
「翔平はそういうとこちゃんとしそうやもん」
「ちゃんとってなに」
「ちゃんと将来のこと考えてそうやん、順序立ててっていうかさ」
「だから、彼女と別れたら狙い目やん」
「今さら翔平とそんなんなるわけないやん、翔平に恋してたら人生遠回りすんで」

頬杖ついた晴人はボーッと宙を見ていた。
何考えてんのやろ。

「なんでそんなにみんな結婚したいんかな、絶対面倒くさいやん」

私のアイスカフェオレが底尽きる。ガラガラッと空気とカフェオレがストローに吸い込まれるだけの音。

「晴人には無理やな」
「無理やな、俺には無理や、誰かと結婚するとか子ども育てるとか」

その時の私はただ、晴人のまだ3割ほど残ってるカフェオレが羨ましくて、それをぼんやりと眺めながら、少し大阪にいる翔平のことを思い出していた。

絶対無理やん、あの男、モテるし。