だいすきボーイフレンド

ここから駅。さっき来た道をそのまま折り返す。簡単だから翔平なら迷わないのは分かってる。

「ここらへん家賃高いやろ」
「うち8万かな」
「あ、そんなもんなんや、10万いくと思っとった」
「狭いけどな」
「1K?」
「1K・・・1Kやな」

二人の間の距離感がぎこちない。
あの花火の時を思い出す。

なぜか翔平にはこれ以上近づいてはならない境界線みたいなものを感じる。

少し沈黙になって、セミの鳴き声が実はうるさく響いていたことに気付く。
土の中で何年も生きてて、最後一瞬で死ぬってそれは一体誰が設計したん。

セミ達はそれを分かってるのか、分かってないのか。

「セミ、一生懸命鳴いてるな」

翔平も隣で言うから、「な」と合わせた。

「ご飯途中だったんちゃうん」
「ご飯はもうさっき翔平来る前に食べたで」
「ご飯なに」
「サラダ」
「ご飯ちゃうよ、それ」

「いや、なんかさ」と言いかけて、ふと晴人のあのひょろっとした痩せた体を思い出す。あんなのと付き合ってたら私が太って見える。

「ダイエット?」

翔平が聞いてきた。

「そんなバリバリやなくて、ちょっとな」
「晴人、別にそんなうるさくないやろ」
「晴人は何も言わんけど、晴人痩せてるからなんか自分が太ってる気になるんよ」
「太ってないやん、普通にかわいいで」