「好きになれんくて」
「なんや、それ」

私の別れた理由を翔平が笑う。

「押しに負けて付き合ったけど、好きになれんかった」
「モテる人はそんなことがあんねや」

翔平が優しく私の方を見る。

一人盛り上がる晴人の声が遠くに聞こえる。

「俺、空いてるで」

波の音に混じってサラリと耳に届いた。

「え」

私が翔平を見上げたまま、固まってると翔平は笑い出した。

「めっちゃ嫌な顔してる。また『好きになれんかった』伝説が増えるだけやんな」
「そんなこと」
「まあ、東京にはどうせかっこいい男がいっぱいおるんやろ、表参道〜とか南青山〜とかそんな場所が似合う人」

翔平が笑う代わりに、私はずっと困った顔をしてたと思う。

翔平はポンと私の頭に手を乗せると、「晴人、楽しそうやな」と言って海の方へと駆け足で去っていった。

その後ろ姿を私は今も思い出す。

あの時、なんで私は困った顔をしてたんだろう。

隣で晴人が寝息を立てる。
私はまた「好きになれんかった」伝説を更新すんのやろか。