翔平は困ったように笑う。

「あかんて、そういうこと言うのは」

自分でもずるいとは思ってた。

「翔平にとっては私じゃなかったんやんな」
「なにが、どういう話してん、今」
「なんでもない」

たぶん翔平は勘がいいから私の気持ちなんてとっくに気付いてる。

私が今完全に女の顔してることにも。

物欲しそうな目で翔平のこと見てることにも。

「海苔残ってんで、食べないなら俺食べる」

目が合うと、また笑う。

「そんな目で俺のこと見んといてよ、あかんよ、まったく。ほらこれ食べたら出よ」

分かってる、翔平と私は絶対に何もないってこと。
翔平はサクッと本が5冊入ったトートバッグを肩にかけ、立ち上がる。

私は最後まで残ってる海苔を食べた。

店を出て、翔平が私の方を見る。

「じゃあ、次は3人やな」
「うん」
「こういうのは偶然やなかったらアウトやもんな」

カラッと笑う。
湿っぽい夏の空気とは対照的に映る。

「そやな」

私が言うと、翔平は頷いた。
翔平は「俺こっちやわ、またな」と言って、信号が青になった方の横断歩道を渡っていった。

多分私から離れないといけないと思ったんだと思う。
私は来た道を帰す。