だいすきボーイフレンド

花火大会当日、私は慣れない浴衣を着て待ち合わせの駅に行くと、既に翔平がラフなTシャツとスラックス姿で待っていた。

「晴人は?」
「晴人、今日と明日2連で模試やから来ないって、受験生誘うな怒られた」

私は「へえ、そうなんや」と言いながら、嬉しさと緊張とドキドキが止まらず、ギュッと浴衣の胸元を抑える。

今顔を見られたら全部がバレる。

「浴衣、いいやん」

翔平は挨拶のようにそう言って笑った。

「そんなん言われたら照れるわ」

私はただそう返すだけで精一杯で、なんとか友達としての距離を保った。

花火大会はなんかもうそれどころじゃなくて覚えてない。

隣に座って、そこにいるのが翔平で、私はただ氷が溶けて全然味がしなくなったジュースを何度も何度も飲んで飲んで飲み干した記憶しかない。
もう何もない紙コップを逆さまになるほど天を仰いで最後の一滴が落ちてくるのを待っていた時。

「何飲む?買ってくるで」と翔平が笑いながら言ってきて、私の中の乙女が恥ずかしさとトキメキで爆発しそうになった。

あわよくば告白されますように、神様。

私は何発も打ち上げられる花火にそう願った。

しかし、花火に神は宿ってない。

何もなく終わった。

何もなく終わったのだ。

告白されることも、手を繋ぐことも、何もなくあっさりと花火は終わった。

翔平は反対方向の我が家まで送ってってくれたのに、うちの親にバレるのが怖くて走るように家の中に入ってしまった。