華子は職場ではあまり親しげな対応はしない。
 これは華子が自身に課した取り決めである。
 特にアラサーとは悲しくも難しいお年頃で、華子は小さいながらも役職持ちだ。
 本来ならフレンドリーな挨拶をするべきかもしれないが、会社から渡された微妙な肩書きに、それは許されないと言われている気になる。

 加えて友達のような関係で仕事を進めてしまうと、後々難しくなるのも経験済みだ。
 なので華子は職場では「ちょっと近寄り難い仁科さん」で通している。
 まあ少し寂しくはあるが仕方ない。同期との関係は良好なので、対等に話せる相手とは区別して付き合う……というスタイルでいる。

 教育担当だと紹介された翔悟にそんな当たり障りの無い挨拶を返し、華子は首を捻った。
(……あら?)
 綺麗に取り繕われた翔悟の表情が僅かに歪んだというか緩んだというか──崩れたような気がしたのだ。
 でもそんな一瞬の違和感は瞬きの間に綺麗に消え失せていて。華子は気のせいかと気を取り直した。