──しかし残念ながら。
 今日の華子はホストを押し退けてホストだった。
 終始翔悟に甲斐甲斐しく世話を焼かれ、女子力を発揮する隙も、歳上の頼れる女をアピールする間もない。
(最後にいいところを見せたかったのに……)
 ただ只管に姉さん女房と生温かい目で周囲から揶揄われ、翔悟には甘やかされるばかりである。
「華子さん、次もカシスですか?」
「え、ええ……」
 せっせと華子の世話を焼く翔悟に皆キャッキャと喜んでいる。
(……ど、どうしよう、付け入る隙がないわ)

 自分の気持ちを表現できない。周りの人の目もそれを許さない。……いや、華子がそうすれば場は余計に盛り上がるだろうが、きっと冗談で纏められるばかりだ。
(そうじゃなくて。どうすればきちんと話せるかしら……?)
 段々と焦り出す華子の気持ちを他所に、すっかり出来上がった場の雰囲気は、翔悟に華子の肩を抱かせていた。
 近いけど近くない、悲しい距離に華子の思考は沈んでいく。そうして逃げるように目の前にある酒を片付けていく。
 葛藤する華子を周りは照れているのだと勘違いしていたのだが、一人思考に暮れている華子には気が付かなかった。