就業時間後の金曜の夜、行き交う会社員たちの解放されたような表情を眺めつつ。華子は結芽の後をついて行った。
「仁科さんって翔悟君の事、好きですよね?」

 ぼんやりとしていた。
 だから急な結芽からの問いかけに、横から殴られたような衝撃を受けた。
「好きですよね?」
 繰り返す結芽に、華子は固唾を飲み込んだ。
「な、何でそう思うの?」
 華子がやっと吐いたのは、そんな当たり障りのない言葉。我ながら歯切れの悪い返事だと渋面を作ると、それをどう捉えたか結芽は失意したように顔を歪めた。

「……だって見てたので。でも何ですか、それ。自分の気持ちを隠そうとして、自分は関係ありませんて顔で」
 結芽はきりりと眦を吊り上げた。
「それで翔悟君が誰かと付き合っても『自分は何とも思っていません』て取り澄ました顔してるんでしょう? 新庄さんの時みたいにっ」
「……っ」