「立川君は、堅太のそうやって愚痴ってる姿に苛立ってるんじゃない? 彼は既婚だし、結婚の大変さは分かってる筈だよ。だから堅太が不満ばかり口にしてるところを見て、嫌な気分になるんだと思うよ」
 そう言うと堅太は視線を逸らした。
「俺は別に……文句なんか……」

 そう呟いているけれど、思い当たるところがない訳ではないようだ。
 華子は身を乗り出して畳み掛けた。

「結婚するんだよ? 彼女と話し合わないと。ね、それには相手が違うでしょ?」

 吐き出したいのは分かるけれど、それで気が済んでいるようでは先に進めない。
「堅太にはちゃんと幸せになって欲しい」
 そう告げれば堅太は目を丸くした。
「頑張ってよ。この人はって選んだ伴侶なんだから」
「……華子」

 結局は、好きだった相手に幸せになって欲しいのだ。
 黙りこくった堅太からレシートを取り上げ、華子はひらりと振ってみせた。
「まあ、これは年上からの叱咤激励だと思って参考にして。言い過ぎた分は私からの餞別って事で、ここの支払いでおあいこね」

「いや。俺が、誘ったのに……」
 躊躇いを見せる堅太に首を傾げる。
「人からの厚意は有り難く受け取るものだよ」
 そう笑えば、堅太は僅かに逡巡してからふっと息を吐いた。

「華子は……そうだったな。ありがとう」