(あ……私……)

 翔悟が好きなのだ。
 何て単純なのだろう。
 
 唇を噛み締めたいのをぐっと我慢して。華子は出来るだけ穏やかに声を出した。
「よ、良かったわね。……頑張って?」
「ふふ? ありがとうございますー。早速今夜も誘っちゃおうと思うんです。どこかいい場所知りません?」
 ぴくりと指先が強張る。
 自分と行ったあのバーに、翔悟が結芽と行く姿が頭を過ぎる。
 雰囲気のいいあの場所で、この二人がプライベートな時間を過ごしたら、きっと……
 華子は急いで顔を背けた。
「……さあ。廉堂君なら知ってるんじゃない?」
「むー、それもそうですね。悔しいけど詳しそう。でも前の彼女と行った場所とか嫌だし、自分で探そうかなー」

「お待たせしました」
 そんな会話を打ち切る翔悟の声に安堵と、複雑な気持ちを混ぜ込んで、華子はPC画面を睨みつけた。
「気をつけてね」
「はーい、行ってきまーす」
「……行ってきます」
 ちらりと振り返る翔悟の眼差しが冷たく見えるのは気のせいか。余計な事を言うなと、勘違いするなと言われている気になってしまう。

 重い溜息が漏れる。
 自分も食事を摂らないとな、と華子は食欲のない腹部を摩った。