雑踏に紛れた華子の背中をじっと見据えてから、翔悟は踵を返した。
 そういえば自分も家に呼び出されていたんだったと思い返す。
 弟の愚痴だろうか。仕事の話だろうか。
(まさか見合いなんて言わないだろうな)
 まあそんな話があれば、紹介したい人がいると言えばいいだけだが。
 その時の親の反応を思い浮かべ、翔悟は口元をにやけさせた。

(ねむ……)
 彼女がいつ逃げ出すか分からなくて怖くてずっと抱いてたし、眠れなかった。隣で爆睡している華子の寝顔に安堵と小憎らしさが込み上げてたなんて、きっと彼女は知らないだろう。
(……本当の最初の出会いなんて、どうせ覚えてないだろうけどさ……)
 だから、これくらいインパクトがあるくらいで丁度いい。

 ぐーっと背を伸ばす。
 まだ朝早い。
 実家に行くのは一眠りしてからでいいだろう。
 翔悟は再び改札を潜り、ホームで戻りの電車を待った。