(何故、こんな事に……)
 本当ならいつものように何の変哲もない週末を過ごす予定だったのに。
(と、とにかく今からでも帰らないとっ)
 シーツを引っ掻くようにベッドから身を乗り出すと同時に、逞しい腕が腹に周り、華子は息を呑んだ。
「……おはよ?」
 甘えるように華子の背中に額を擦り付けて、朝の挨拶を口にするのは、自分が教育担当を受け持つ新入社員だ。……多分。
「お、おはよう……?」

 それより全く知らない男と過ごしてしまい、無かった事にする方が断然いいと今なら思う。
 強張る舌を何とか動かせば、すっかり掠れた自分の声に驚き、華子は思わず手で口を覆った。
 くすっと笑う声が腰に響く。

「今、飲み物用意する。腰は平気?」
 そういいながら腰に頬擦りをする翔悟に華子は身動いだ。
「く、擽ったいっ──痛っ、?!」
 ズキッと響く腰に顔を顰めれば、申し訳なさそうな翔悟が華子の顔を覗き込んだ。
「ごめん、やっぱり無理させちゃった。……嬉しくて、つい……」
「……う」
 込み上げていた怒りがさっと霧散する。
 頼られるのに慣れているせいか、そんな顔をされると絆されてしまって、強く出れない。