……研修期間、華子は上司に状況報告をする義務があるのだが、そんな上の期待に充分応えられるだけの結果を、翔悟は残してきた。
 
 指導者の贔屓目なしに、翔悟はよく頑張ったと思う。
 力が入った華子の指導にも、厳しい態度にも動じずついてきてくれた。
 ──だからつい、その日の仕事終わり、声を掛けてしまったのだ。
 研修期間も残すところあと一週間。そんな最後の金曜日だった。

(お昼を一緒に取る時間は無かったから)
 勿論翔悟に予定があれば遠慮したし、上司と飲むのが気疲れなようなら無理強いするつもりなど無かった。
(部のお別れ会は来週あるけど……)
 一杯くらい、一時でも上司だった自分が労ってもいいんじゃないかと。
 直向きに頑張る彼に、そんな気持ちが湧いたのだ。

「嬉しいです、仁科さん」

 そう言って笑った翔悟の顔は、いつもの綺麗な笑顔ではなくて、不思議と蕩けるように見えた。
 目の錯覚かなとは思ったものの。喜んでくれた事が素直に嬉しかったし、どうやら自分の指導ぶりも中々だった訳だな、なんて自惚れつつ納得した。