(……くっ、話には聞いていたけど……優秀ねっ)

 それも相当に。
 触れ込み通り、翔悟は期待の新人だった。
 実際に彼の能力を目の当たりにして、華子は一層目を丸くしていた。

 一聞けば十理解する。
 そんな言葉を聞いた事はあるが、体感するのは初めてで。段々と自分の方が追い詰められていくような、妙な焦燥感に駆られつつある。
(負けたく無いっ)
 入社七年の自分が、入ったばかり──どころか新社会人にやり込められる訳にはいかない。華子はふんすと気合いを入れ直した。


「──仁科さん、ここの数字の取り方を教えて下さい」
「ああ、ここは──」
「こっちの数字を使うのはダメなんですか?」
「うん。この資料にはここの分が混ざってるから……」


 負けじとせっせと指示を出す。
 しかしそんな華子の奮起にも、翔悟は介さず食い下がってくる。
 そんな翔悟とのやりとりに、華子はやりがいを見出し、モチベーションを昂らせていった。