日本に帰国し、本省勤務になるのなら、もうその必要はないのではないか。

(それとも、こちらでもパーティーには奥さんの同伴が必要ってこと?)

混乱した頭で拓海がなにを考えているのかを推し量ろうとするも、彼の思考は少しも読めない。

「湊人くん、保育園は?」
「いえ、入れてないです」
「俺が渡したカードは全く利用履歴がなかった。仕事はどうしている?」
「……私のこと、調べたんですよね?」
「そうだが、必要最低限だけだ」

必要最低限とは、なににとって“必要”なのか。

沙綾は疑問に感じながらも「在宅で翻訳の仕事をしています」と素直に答えた。

「在宅ならなお都合がいい。今週末は空いてるか? 俺も仕事の都合をつけてくる。そこで引っ越しをしよう」
「引っ越し⁉」
「夫妻が同居するのに、そんなに驚くことはないだろう」

端正な顔に意地悪な微笑みを乗せ、沙綾を見つめてくる。

「ちょ、ちょっと待って下さい。夫妻って」
「言っただろう。君はまだ俺の妻だ」

そう言い放つ拓海は冗談ではなく、本気で沙綾を妻に望んでいるように見えた。